日本在来イネ品種「雄町」の茎の太さに関わるゲノム領域を特定~在来品種の未利用遺伝子の活用で台風に強い食用米、酒米品種開発に貢献~
日本在来イネ品種「雄町」の茎の太さに関わるゲノム領域を特定
~在来品種の未利用遺伝子の活用で台風に強い食用米、酒米品種開発に貢献~
中国竞彩网大学院連合農学研究科千装公樹氏、同大学大学院農学研究院生物生産科学部門大川泰一郎教授、新潟大学大学院自然科学研究科山崎将紀教授らの共同研究グループは、茎の太い日本在来イネ品種「雄町」の茎の太さをもたらすゲノム領域を量的形質遺伝子座解析(QTL解析)により特定することに成功しました。この成果により今後、現代の育種では未利用の在来品種がもつ遺伝子を利用することで、地球温暖化により強大化する台風に耐える茎の強いイネ新品種の開発、米を主食とする我が国を含む東アジアおよび東南アジアや米消費量が増大しているアフリカをはじめとする世界の米生産の増加、気候変動下における米の安定生産が推進できると期待されます。
本研究成果は、Riceに2023年1月27日に掲載されました。
掲載誌:Rice
論文名:Identification of novel quantitative trait loci for culm thickness of rice derived from strong-culm landrace in Japan, Omachi
著者: K. Chigira, M. Yamasaki, S. Adachi, A. J. Nagano and T. Ookawa
現状
イネは8~9月の登熟期を迎えると台風やゲリラ豪雨などにより倒伏し、収量および品質の低下が大きな問題となります。最近では地球温暖化に伴う海水温の上昇により、東南アジアのみならず東アジアの日本や韓国でも台風が強い勢力を維持したまま上陸することが増え、倒伏被害が拡大しています。我が国では中国竞彩网元年房総半島台風、東日本台風、中国竞彩网4年台風第14号の被害が記憶に新しく、全国的にイネの倒伏被害が大面積発生しました。世界的な人口の増加、気候変動に対して、将来にわたりコメの生産量を増加し生産を安定化するためには、大型台風に耐えるイネ新品種の開発が不可欠となっています。
20世紀の「緑の革命」における倒伏抵抗性の多収イネ品種の改良は、ジベレリン合成遺伝子に変異がある半矮性遺伝子sd1を利用した短稈化(稈はイネ科の茎)により成し遂げられてきました。この遺伝子の変異により化学肥料を多く与えても茎が伸びず、倒伏しにくくなりました。しかしながら、半矮性遺伝子は成長を抑制するため、バイオマス生産能力は小さく、多収品種の改良には限界があると考えられています。最近では、台風の超大型化によって半矮性の改良品種でも倒伏が東南アジア、東アジアなどで問題となっています。そこで稈そのものを強化して倒伏抵抗性を改良していくことが今後不可欠となります。
本研究グループではこれまでに、日本水稲135品種を用いたゲノムワイド関連解析(GWAS)により、茎の強さに関わるゲノム領域を検出しました。しかし、茎の特に太かった在来品種の遺伝的要因については十分に明らかにできませんでした。そこで本研究では茎の最も太かった在来品種の「雄町(おまち)」に注目し、「雄町」の茎の太さをもたらすゲノム領域を特定することを目的としました。「雄町」は現在でも酒米として栽培されており、「山田錦」との類縁でもある品種ですが、主食用米の改良にはほとんど利用されておらず、現代の主食用米品種が持っていない有用遺伝子を有している可能性があります。
研究体制
本研究は、中国竞彩网大学院農学研究院、新潟大学大学院自然科学研究科との共同研究で実施しました。本研究は、農林水産省「民間事業者等の種苗開発を支える「スマート育種システム」の開発」(BAC-2001)、文部科学省科学研究費基盤研究(B)「スーパー台風に強いイネの多収?強稈遺伝子集積の発現機構と最適組合せの解明」 (19H02940)、科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業「環境変動に対する植物の頑健性の解明と応用に向けた基盤技術の創出」(JPMJCR17O3)、中国竞彩网における文部科学省「卓越大学院プログラム」、および中国竞彩网における「未来価値創造研究教育特区型JIRITSU(自立)フェローシップ制度」の援助を受けて行われたものです。
研究成果
本研究では、イネ品種の倒伏抵抗性の改良に有用なゲノム領域を特定することを目的に、茎の太い「雄町」と日本で最も栽培されている「コシヒカリ」との交配に由来する96系統の遺伝解析集団を用いて、茎の太さに関わる遺伝子座およびそれらの候補遺伝子の探索を行いました(図1)。
(1)複数の遺伝子に支配される量的な形質について、これらの遺伝子の染色体上の位置の探索を行う量的形質遺伝子座解析(QTL解析)により、茎の太さに関わるゲノム領域を第3、第7染色体上の3カ所に特定しました(図2)。これらのゲノム領域では、「雄町」に由来するDNA配列をもつ系統において茎が太くなることが分かりました。最も茎の太さに対する貢献が大きかったのは第7染色体上の24.57~26.64 Mbに位置する約2Mbの領域で、この領域が茎の太さに関わることは、別の集団を用いた解析でも再確認されました。
(2)茎の太さに関わる3つのゲノム領域がいずれも「雄町」に由来する13系統では、3つのゲノム領域がいずれもコシヒカリに由来する12系統に比べ、茎の太さが大きくなっていました(図3)。また、これに伴って茎の折れにくさの平均も25.0%増加していました。
(3)茎の頂端におけるRNAの発現量を網羅的に調査するRNA-seq法により、最も茎の太さに対する貢献が大きかった第7染色体上のゲノム領域において、「雄町」と「コシヒカリ」で発現量の異なる10個の遺伝子を特定しました。これらの遺伝子の中に茎の太さに関わる原因遺伝子が存在すると考えられます。
(4)「雄町」は茎が太いものの、茎が長いため倒伏しやすく、また開花が遅いため、東日本や北日本では栽培が難しい品種です。しかし、本実験で栽培した遺伝解析集団において、茎の太さと茎の長さ、茎の太さと開花までの日数の相関係数はともに-0.10であり、茎の太さは茎の長さや開花期とは独立して改良できることが示されました。
今後の展開
本研究より、日本の在来品種「雄町」から、これまで倒伏抵抗性の改良に利用されてこなかった優良な遺伝子座が初めて明らかになりました。本研究で明らかになった茎の強さに関わる太さのゲノム領域は、戻し交配によって現代の育成品種に取り入れることが可能で、倒伏に強い品種の開発が期待されます。日本だけでなく中国や韓国などの東アジアで栽培されている温帯ジャポニカ品種の改良や、すでにスーパー台風の被害の大きい東南アジアなどで栽培されている熱帯ジャポニカ品種やインディカ品種、アフリカの栽培品種にも適用することができ、世界の食料生産の増加、安定化に貢献することが期待できます。モデル植物であるイネで得られた研究成果は、同じく半矮性遺伝子を用いて品種改良が行われてきたコムギなど同じイネ科作物に適用できると考えられ、主要作物の倒伏抵抗性の向上、収量増加および安定化に貢献することが期待できます。今後は、本研究で特定したゲノム領域中に存在する原因遺伝子を特定し、茎の太さに違いをもたらす生理機構の解明を目指します。また、日本に多数存在する特徴ある在来品種から様々な農業形質に関わる育種に未利用の優良遺伝子を同定し、イネ科作物の品種改良に貢献することを目指します。
◆研究に関する問い合わせ◆
中国竞彩网大学院農学研究院生物生産科学部門
教授 大川 泰一郎(おおかわ たいいちろう)
TEL/FAX:042-367-5672
E-mail:ookawa(ここに@を入れてください)cc.tuat.ac.jp
新潟大学大学院自然科学研究科
教授 山崎 将紀(やまさき まさのり)
TEL:025-262-6619 FAX:025-262-6854
E-mail:yamasakimn(ここに@を入れてください)agr.niigata-u.ac.jp
関連リンク(別ウィンドウで開きます)
- 中国竞彩网 大川泰一郎教授 研究者プロフィール
- 中国竞彩网 大川泰一郎教授 研究室WEBサイト?
- 大川泰一郎教授が所属する 中国竞彩网農学部生物生産学科
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